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東京地方裁判所 平成8年(ワ)17075号 判決

原告

島守広信

ほか二名

被告

大瀧洋二

ほか一名

主文

一  被告らは、原告島守広信に対し、連帯して金一二六万七九七六円及びこれに対する平成八年四月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、原告島守敬子に対し、連帯して金一一五万七九七六円及びこれに対する平成八年四月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告らは、原告株式会社島守工務店に対し、連帯して金三一万円及びこれに対する平成八年四月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用は、五分の二を被告らの負担とし、その余を原告らの負担とする。

六  この判決は、第一項ないし第三項について、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告らは、原告島守広信(以下「原告広信」という。)に対し、連帯して金三二七万〇五四七円及びこれに対する平成八年四月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、原告島守敬子(以下「原告敬子」という。)に対し、連帯して金三〇六万一六七二円及びこれに対する平成八年四月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告らは、原告株式会社島守工務店(以下「原告会社」という。)に対し、連帯して金一一九万二七三四円及びこれに対する平成八年四月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、信号機による交通整理の行われている交差点において、青信号に従って通過しようとした普通乗用自動車に、赤信号であるにもかかわらず交差点に進入した普通乗用自動車が衝突した交通事故について、被害車両の運転者、その同乗者及び運転者が勤務していた会社が、加害車両の保有者及び運転者に対し、民法七〇九条、自賠法三条に基づき損害の賠償を求めた事案である。

一  前提となる事実

1  交通事故(以下「本件事故」という。)の発生(争いがない)

(一) 発生日時 平成八年四月七日午後七時一五分ころ

(二) 発生場所 東京都板橋区三園二丁目二番先路上

(三) 加害車両 被告大瀧洋二(以下「被告洋二」という。)が保有し、被告大瀧浩正(以下「被告浩正」という。)が運転していた普通乗用自動車(練馬三四て八〇七〇)

(四) 被害車両 原告広信が運転し、原告敬子及び島守香奈美が同乗していた普通乗用自動車(所沢三三た七五七三)

(五) 事故態様 原告広信は、被害車両を運転し、本件事故発生場所付近の道路を南から北へ向かって走行させていた。被害車両は、本件事故発生場所である交差点にさしかかり、原告広信は、対面信号機が青色になったので被害車両を発進させた。他方、被告浩正は、交差道路を南西に向かって加害車両を運転し右交差点に差しかかった。その際、対面信号機は赤色であったが、被告浩正は、これを無視した上、前方注視を怠るとともに制限速度を超過した速度で加害車両を交差点に進入させた。その結果、飯野一隆が運転する車両及び被害車両に加害車両を衝突させ、被害車両の右後部を大破させた。

2  通院経過

(一) 原告広信は、本件事故後、次のとおり通院治療を受けた(甲三の1、四の1、乙二の1・2、三の1・2、四の1・2)。

(1) 日本大学医学部付属練馬光が丘病院(以下「練馬光が丘病院」という。)

平成八年四月七日、八日

(2) 医療法人社団朝霞台中央総合病院(以下「朝霞台中央総合病院」という。)

平成八年四月一七日、同年五月一日、同年七月一七日

(二) 原告敬子は、本件事故後、次のとおり通院治療を受けた(甲三の2、四の2、乙五の1~3、六の1・2、七の1・2)。

(1) 練馬光が丘病院 平成八年四月七日、八日、

(2) 朝霞台中央総合病院 平成八年四月一二日、同年七月一七日

3  責任原因(争いがない)

(一) 被告浩正は、自動車を運転するに際しては、常に前方の信号機を注視し、その指示に従わなければならないのにこれを怠り、かつ、制限速度を超過して交差点に進入し、加害車両を被害車両に衝突させた過失がある。

したがって、民法七〇九条に基づき、本件事故により生じた原告らの後記損害を賠償する義務がある。

(二) 被告洋二は、加害車両を保有し、被告浩正にこれを運転させて自己のために運行の用に供していたのであるから、民法七〇九条、自賠法三条により、本件事故により原告らに生じた後記損害を被告浩正と連帯して賠償する義務がある。

4  被害車両の所有関係

原告広信及び原告敬子(両名をまとめて、以下「原告広信ら」という。)は、被害車両を二分の一ずつ共有している(弁論の全趣旨)。

二  争点

1  原告会社の損害

(一) 原告広信に対して支払った賃金

(原告会社の主張)

原告広信は、本件事故当時、原告会社に勤務して月額四〇万円の賃金を得ていた。原告広信は、本件事故による傷害の治療及び症状のため、平成八年四月八日から同年五月七日まで勤務をすることができなかったが、原告会社は、原告広信に対して一か月分の賃金四〇万円の支払を余儀なくされた。

(被告らの反論)

原告広信の症状及び通院頻度からすると、原告広信には休業の必要は認められず、したがって、原告会社が原告広信に四〇万円を支払ったとしても、本件事故と相当因果関係はない。

(二) 臨時出費(代替労働賃金)

(原告会社の主張)

原告広信は、原告会社において大型トラックの運転をしていた。原告会社は、ビル建築や型枠工事等を主な業務内容としており、大型トラックによる建築資材の運搬は原告会社の業務において必要不可欠である。そこで、原告会社は、原告広信が休業していたうちの平成八年四月八日から同月三〇日までの間、代替労働力として藤野秀夫を臨時に雇用し、その賃金として六八万四九五〇円を支払った。

(被告らの反論)

原告広信には休業の必要は認められないから、その代替労働力として雇用した者に賃金を支払ったとしても、本件事故と相当因果関係はない。仮に、原告広信に休業の必要が認められるとしても、従業員の不就労によって会社に生じる減益は、本件事故と相当因果関係がないというべきであるから、それを防止するために臨時に雇用した者に支払った賃金も、やはり本件事故と相当因果関係はない。仮に、臨時に雇用した者に対して支払った賃金が本件事故による損害であるとしても、そもそも、藤野秀夫に賃金を支払ったのかについて疑問がある。また、原告会社が藤野秀夫に賃金を支払ったとしても、その金額は、原告広信の賃金の額を超過しているから、原告広信の労務の代替以外の労務をも行っていたと考えるのが相当であり、その全額について本件事故と相当因果関係があるとはいえない。

(三) 弁護士費用(請求額一〇万七七八四円)

2  原告広信らの損害(両名の通院証明書料各二〇六〇円は争いがない。)

(一) 車両損害

(原告広信らの主張)

被害車両は、本件事故により右後部を大破して残存価値がなくなった。被害車両の本件事故当時の時価は四四〇万円である。したがって、原告広信及び原告敬子は、四四〇万円の損害を被った。

右の時価相当分の損害が認められないとしても、被害車両には修理費として一八四万五九七〇円を要する損傷が生じたうえ、六九万八〇〇〇円の評価損が生じた。性能や外観が事故前の状態に回復したとしても、事故歴があると下取価格が低くなるとの実務慣行があるから、評価損は生じている。したがって、原告広信及び原告敬子は、少なくとも二五四万三九七〇円の損害を被った。

右の損害が認められないとしても、本件事故に遭わなければ、被害車両を、少なくとも二三四万五〇〇〇円で下取りに出すことができたのに、平成九年三月一八日に被害車両を事故に遭った状態で下取りに出したところ、代金は五〇万円であった。したがって、原告広信及び原告敬子は、少なくとも、その差額である一八四万五〇〇〇円の損害を被った。

(被告らの反論)

被害車両の時価は修理費を上回るから、全損として時価相当額の損害を被ったとはいえず、かつ、被害車両に生じた損傷は修理費として一五八万三七六〇円を要する程度にとどまる。また、被害車両においては、フレームやエンジンなどの車両の本質的構造部分に損傷が生じておらず、性能及び外観ともに本件事故以前の状態に回復することができるから、評価損は認められない。仮に、通常の下取価格と現実の下取価格の差額が損害と認められるとしても、原告広信らは、被害車両を修理することなく放置し、下取価格を低下させて損害を拡大させたものであるから、この損害を拡大させた部分は、本件事故に基づく損害とはいえない。

(二) 代車料

(原告広信らの主張)

原告広信及び原告敬子は、通勤、買い物等の日常生活に車の使用が不可欠であり、本件事故後は被害車両を使用することができなかったので、平成八年四月九日から同年八月末日時点において他の者らから車を借りており、合計九八万九一三〇円を支払った。

(被告らの反論)

代車使用の必要性があるとしても、被害車両の損傷の程度からすると、代車が必要とされる期間は、通常の修理期間として最大限二週間に限定されるべきである。したがって、平成八年四月一一日から同月二四日までの合計八万九〇〇〇円の限度で本件事故と相当因果関係が認められる。

(三) レッカー代等

(原告広信らの主張)

原告広信らは、被害車両の処理のため、株式会社レッカプラザに対し、レッカー代として三万六一五三円、保管料として二万〇六〇〇円の合計五万六七五三円を支払った。

(被告らの反論)

原告広信らが、被害車両の処理のため、株式会社レッカプラザに対し、レッカー代として三万六一五三円、保管料として二万〇六〇〇円の合計五万六七五三円を支払ったことは認めるが、保管料は、原告広信らが早急に修理に着工しなかったことから必要になったもので、本件事故と相当因果関係はない。

(四) 慰謝料

(原告広信らの主張)

本件事故により、原告広信は通院一か月、原告敬子は通院一週間の傷害を受け、原告広信はその後も頭痛等に悩まされ、原告敬子の右膝には現在も傷痕が残存している。原告広信らに落ち度のない事故態様を併せて考慮すれば、原告広信の慰謝料は二五万円、原告敬子の慰謝料は六万円が相当である。

(被告らの反論)

原告広信らの通院頻度は少なく、特筆すべき症状及び所見はないから、原告広信らが請求する慰謝料は高額にすぎる。

(五) 弁護士費用(請求額 原告広信二九万五五四五円、原告敬子二七万六六七〇円)

第三争点に対する判断

一  原告会社の損害(争点1)

1  原告広信に対して支払った賃金(争点1(一)) 二八万円

(一) 前提となる事実、証拠(甲一一、乙二の1・2、三の1・2、四の1・2、練馬光が丘病院及び朝霞台中央総合病院に対する各調査嘱託の結果、原告広信本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(1) 原告広信は、父親が代表取締役である原告会社で、建築資材を運んだり、請求書の配達をする運転手をするとともに、父親と相談しながら原告会社の種々の事柄を決めたりしていたが、役員ではなく、本件事故直前は毎月四〇万円を給与して支給されていた。

(2) 原告広信は、本件事故当日である平成八年四月七日に頭痛及び吐き気を訴えて練馬光が丘病院で治療を受け、頭部打撲の診断を受けた。頭蓋単純写真による検査を受けたが異常はなく、翌八日にも同病院に通院して治療を受けた。原告広信の頭痛は、ズキンズキンと叩かれるような痛みで、一時間置きに継続する状態であった。同年四月一七日には、右側頭部痛及び後頭部痛を訴えて朝霞台中央総合病院に転院し、頭部外傷、外傷性頸部症候群の診断を受けたが、頭部CTによる検査では異常はなかった。その後、同年五月一日に通院した後は通院せず、同年七月一七日になって一度通院して診察を受け、診断書の作成を受けた。原告広信は、本件事故の翌日から一か月間ほどは十分な仕事ができなかったが、両病院の医師は、原告広信に対し、就労制限はしておらず、原告会社は原告広信に対し、平成八年四月、五月ともに給与として四〇万円を支払った。

(二) この認定事実に対し、原告広信本人は、「一か月仕事を休んだ。」として、原告会社の主張に沿う供述をする。しかし、他方で、「事故後初めて仕事に行った日はいつごろか記憶にない。」とか、「仕事を休んだ日とか、仕事に行けるようになった日などは覚えていない。」などと欠勤の状況についてあいまいな供述をしていること、四月中に代車を通勤に使用したか否かについても、反対尋問においては「覚えていない。」と供述したり、答えられなかったりする一方で、再主尋問において「痛みが途切れ途切れであるから、一か月くらいあまり運転していない。」と供述するなど、その内容も同じくあいまいであることに照らすと、事故態様や症状からして一か月間はあまり仕事ができなかったとしても、まったく仕事をしていないことについては疑問があり、原告広信本人の供述はただちには採用できない。

(三) (一)の認定事実によれば、原告広信の症状は、打撲による痛みである可能性が高いということができ、衝突態様や症状の内容をも併せて考えると、ある程度の休業の必要は否定できない。しかし、他方、右のとおりの負傷内容であることに加え、通院頻度が低いことに照らすと、その痛みの程度は、本件事故直後はともかく、一か月間も十分仕事ができないほどのものであったかについては疑問があること、原告広信の業務内容は、肉体労働である運転業務のほかに、父親と相談しながら原告会社内の種々の事柄を決めることを含むことを併せて考えると、原告広信は、本件事故後一か月の間、平均して七〇パーセントの限度で労働能力を制限され、休業の必要があったと判断するのが相当である。そして、原告広信も生活費が必要であることは否定できないから、原告会社がその制約された分について労働能力の対価なくして賃金を支払ったことはやむをえないものということができる。

したがって、原告会社が原告広信に支払った四〇万円については、二八万円の限度で本件事故と相当因果関係を認めることができる。

2  臨時出費(代替労働賃金、争点1(二)) 認められない

原告会社が主張するように、平成八年四月八日から同月三〇日までの間、藤野秀夫を臨時に雇用し、その賃金として六八万四九五〇円を支払ったとしても、原告広信が制約を受けた労働能力に対する対価である二八万円に相当する分は、原告広信に代わって労働力の提供を受けたことの対価として支払ったにすぎないもので、いずれにしても、労務の対価として支出しなければならないものであるから、原告会社は損害を被ったとはいえない。また、代替労働力としては、その役割からして、本来の労働力が制限を受けた限度で、それと同等の者を補充すべきであるから、藤野秀夫に支払った賃金のうち、二八万円を超える部分は、本件事故と相当因果関係はないというべきである。

3  弁護士費用(争点1(三)) 三万円

本件認容額、審理の内容及び経過などの諸事情を総合すれば、本件事故と因果関係のある弁護士費用は、三万円を相当と認める。

二  原告広信らの損害(争点2)

1  車両損害(争点2(一)) 一八四万五〇〇〇円

(一) 被害車両の本件事故当時の時価(市場価格)及び修理代が、原告広信らが主張するとおりの金額であるとしても、被害車両は修理が可能であり(修理代を主張している以上、修理が可能であることを当然の前提としているものと理解することができる。)、時価を下回る金額で修理をすることができるから、原告広信らが被害車両の時価相当分の損害を被ったとはいえない。

(二) 証拠(甲五、八、原告広信本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。

(1) 被害車両は、平成五年九月二二日に登録されたニッサンプレジデントであり、本件事故当時までに一万九〇六一キロメートル走行していた。本件事故当時、平成五年式の同形式・仕様のニッサンプレジデントの市場価格は三〇五万円から四四〇万円であったが、本件事故当時に下取りに出せば、少なくとも二三四万五〇〇〇円で下取りを受けることができた。

(2) 本件事故により被害車両が損傷を受けた部位は主として右後側部であり、リアのバンパー、フェンダー、ドア、ルーフパネル、サスペンションなどが損傷を受けたが、フレームやエンジンなどは損傷を受けていない。埼玉日産モーター株式会社朝霞営業所の修理見積りによれば、被害車両を修理するとすれば、合計一八四万五九七〇円の修理費がかかるとのことであった。なお、その概算見積書には、RRショックアブソーバー、シャフトアッセンブリー、リヤメンバークロスセンターが複数計上されており、フロントガラス脱着についての工賃も計上されている。

(3) 原告広信らは、被害車両が事故車になったので再びそれを運転しようという気にならず、修理をせずに放置していたが、猫が入るなどして車内の状態が悪化してきたので、平成九年三月一八日、有限会社オートセンサーに対し、被害車両を五〇万円で下取りに出し、その際に新車を購入した。

(三) この認定事実に対し、被告らは、被害車両の修理費を一八四万五九七〇円と見積もった埼玉日産モーター株式会社朝霞営業所作成の概算見積書(甲七)には、リヤーサスペンションを構成する部品であるRRショックアブソーバー、シャフトアッセンブリー及びリャメンバークロスセンター、ドアーフィニッシャーの部品が複数計上されており、部品交換が不要な左側のリヤーサスペンション、ドアーフィニッシャーの部品も計上されている疑いがあること、不必要なフロントガラスの脱着が工賃として計上されていること、業界で通常用いられている株式会社日本アウダーテックス編集・発行の「指数ガイド」や株式会社ペアテック出版編集・発行の「見積ガイド」の修理工賃より全体的に割高であること、使用部品を作業項目ごとに系統的に計上しておらず、単に部品及び修理工賃を羅列していて内容の検証自体が容易でないことなど問題が多く、その内容の信用性には疑問があるから、修理費は一八四万五九七〇円とは認められないと主張し、これに沿う証拠(乙一〇、一四)も存在する。

しかし、右後側部に衝突された場合に左側のリヤーサスペンションに問題が生じないと断定できるか疑問がある。ドアーフィニッシャーの部品に関する指摘は、具体的にどの部品を指しての疑問か明らかではなく、修理を行うのにフロントガラスを脱着する必要がないといえるか否かも明らかでない。修理工賃の基準も、被告らが主張する基準が業界で通常用いられているとまでいえるものか必ずしも明らかではなく、見積書の記載方法も内容に疑問を生じさせるほどのものとまではいえない。したがって、埼玉日産モーター株式会社朝霞営業所作成の概算見積書の内容が信用できないとまではいえず、被告らの主張はただちには採用できない。

(四) 自動車が交通事故により破損したものの、修理が可能である場合には、修理費が事故当時の被害車両の時価を上回らない限りは、原則として修理費をもって損害とすべきである。しかし、修理可能な車両を修理することなく下取りに出したときは、本来、買換えの必要がないのにそれを行ったのであるから、通常あるべき下取額(買換え)と現実の下取額の差額と修理費(評価損が認められる場合はそれ加えた額)のいずれか低い金額をもって損害と認めるのが相当である。

そこで、右(一)の認定事実を前提に判断するに、被害車両の通常あるべき下取額と現実の下取額の差額は一八四万五〇〇〇円であり、修理費一八四万五九七〇円を下回るから、車両損害は一八四万五〇〇〇円となる。

もっとも、被害車両は修理せずに放置され、車内の状態が悪化していたのであるから、このことが下取価格をより低下させる事情となった可能性は否定できず、右の差額全額について本件事故と相当因果関係を認めることができるか疑問がないではない。しかし、平成八年八月一〇日の時点で価格なしと査定されていたこと、一般に販売業者が新車の販売のために本来の査定を相当上回る価格で中古車の下取りをすることも考えられることを考慮すると、五〇万円の下取価格も有限会社オートセンサーが新車の販売のために本来の査定を上回る金額を定めた可能性が高いということができるから、仮に、原告広信らが被害車両を放置しなかったとしても、現実の下取価格が五〇万円を超える金額になった可能性が高いとまではいえない。したがって、差額全額について、本件事故と相当因果関係を認めるのが相当である。

2  代車料(争点1(二)) 九万円

(一) 原告広信らは、原告広信の通勤や業務のほかに、子供がまだ小さいこともあって、買い物などの日常生活にも自動車が必要であり、両名ともに自動車を運転することがあった(原告広信本人)。

このように、原告広信らの代車使用の必要性は否定できないが、被害車両は修理が可能であるから、原告広信らは、修理に通常必要な期間(被害車両の修理内容及びその金額に照らすと、本件事故の翌日である平成八年四月八日から長く見ても二〇日間とするのが相当であり、修理にこれ以上の期間が必要であることを認めるに足りる証拠はない。)の限度で代車の使用が認められるというべきである。

(二) ところで、原告広信らが、本件事故後の平成八年四月一一日から同年八月三一日まで、原告会社の従業員や知人の合計四人から自動車を借り受け、それらの者に合計九七万七一三〇円を支払ったとの限度においては、原告広信らの主張に沿う証拠として、自動車の貸主らが作成した領収証(甲九の1~11)がある(原告広信らは、平成八年四月九日と一〇日にも島守真由美から自動車を借り受け、一万二〇〇〇円を支払ったと主張するが、これに沿う証拠はない。)。

原告広信らは、平成八年四月一六日から一七日、翌一八日から一九日の合計二日間(延べ四日間)は被告洋二が契約して費用を負担したレンタカー会社から代車の提供を受けているが(乙一三の1・2。弁論の全趣旨)、前記の領収証には、その間、原告会社の従業員である大平光昭及び藤原喜市郎からも自動車を借りて代金を支払ったことが記載されており(甲九の1・2、乙一三の1・2、原告広信本人)、この間の事情は本件全証拠によるも明らかではない。また、この領収証の内容は、代車料として一日六〇〇〇円から七〇〇〇円を支払ったこと、平成八年四月二七日からは消費税も支払っていることが記載されているなど(甲九の1~11)、知人や原告会社の従業員から自動車を借り受けるにしては、やや不自然であることは否定できない(支払った金額は総額一〇〇万円近くになる。原告広信本人が、借りた自動車は、貸主らが通勤などに使用することもない余剰の車であると供述をしていることを併せて考えると、それほどの金額を支払うのかとの疑問はある。)。

しかし、被告洋二からのレンタカーの提供は、それが本件事故から一〇日ほど経過した後になされているから、原告広信らがすでに原告会社の従業員から代車を借りていた際に、被告側から提供された可能性は考えられる。友人らに対し、代車料として、一日あたり六〇〇〇円から七〇〇〇円を支払っていることについても、交通事故による損害として加害者に請求することを考慮して、従業員や友人に対しても代金を支払うことにした可能性もある。これらの事情に加え、特に、弁論の全趣旨(被告らは、原告広信らの代車の必要性やその期間についてはともかく、代車を借りたか否か、その代金を本当に支払ったか否かについては、積極的に争っていない。)を総合すると、前記の領収証の内容には若干の疑問は残るものの、原告広信らは、この領収証のとおり、代車を借り受けて代車料を支払ったと認めるのが相当である。

したがって、被害車両の修理に必要な期間である平成八年四月八日から同年四月二七日までのうち、現実に代車を使用したと認められる同月一一日から同月二七日までの一七日間から、被告洋二から代車の提供を受けた二日間を除いた一五日間について、一日あたり六〇〇〇円(原告が代車料として支払っている最も低い額)の合計九万円の限度で代車料を本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

3  レッカー代等(争点2(三)) 五万六七五三円

原告広信らは、被害車両の処理のため、株式会社レッカプラザに対し、レッカー代として三万六一五三円、保管料として二万〇六〇〇円の合計五万六七五三円を支払った(争いがない)。

本件全証拠によるも、保管料が何日分のものか明らかでないが、その金額に照らすと、わずかな日数分のものと推認するのが相当であるから、原告広信らが早急に修理に着工しなかったためにかかった費用であるとはいえない。

したがって、レッカー代のみならず、保管料についても、本件事故との間に相当因果関係が認められる。

4  診断書料 各二一〇〇円

原告広信らは、練馬光が丘病院に対し、診断書料として各二一〇〇円を支払った(争いがない)。

5  慰謝料(争点2(四))原告広信一五万円、原告敬子五万円

原告敬子は、本件事故により右膝を打撲し、原告広信は、仕事に復帰した後も、季節の変わり目や曇天の日などに痛みが出ることがある(乙六の1、原告本人)。

この認定事実に、原告広信らの治療経過、原告広信においては、さらに負傷の内容、休業の必要などの諸事情を総合すると、慰謝料としては、原告広信が一五万円、原告敬子が五万円を相当と認める。

6  損害の小計

1ないし3の損害合計額一九九万一七五三円を、原告広信及び原告敬子の所有割合に従って二分すると、各九九万五八七六円となる(一円未満切捨)。これに、原告広信においては、4、5の損害合計額である一五万二一〇〇円を、原告敬子においては、4、5の損害合計額である五万二一〇〇円をそれぞれ加えると、損害の小計は、原告広信が一一四万七九七六円、原告敬子が一〇四万七九七六円となる。

7  弁護士費用(争点2(五))

本件認容額、審理の内容及び経過などの諸事情を総合すれば、本件事故と因果関係のある弁護士費用は、原告広信が一二万円、原告敬子が一一万円を相当と認める。

第四結論

以上によれば、原告らの請求は、不法行為に基づく損害金として、原告広信においては一二六万七九七六円、原告敬子においては一一五万七九七六円、原告会社においては三一万円と、これらに対する平成八年四月七日(不法行為の日)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 山崎秀尚)

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